宮澤賢治、風の世界

宮澤賢治の作品を彩る言葉と風を追って宮澤賢治の世界を訪ねよう。 賢治は風という言葉に何を託したか。風を描くためにどんな言葉を選んだか。 賢治は何を求めて風の中に身を置いたのだろう。 そこに少しでも近づきたくてページを埋めていく。
 
永野川2016年11月下旬
26日
 風もなく雲ひとつない好天で、暖かい探鳥日和でした。10:00頃出かけました。
 二杉橋から入るとすぐ上に、カルガモ15羽、コガモ14羽、少し上にアオサギが間隔を置いて2羽、ダイサギが1羽、ハクセキレイが3羽、セグロセキレイ4羽、ここだけが河川工事をしていないので、集中しているのかもしれません。
 カワセミらしい声だな、思って登って行くと、一瞬、遡って行く1羽が青く光って見え、幸運なスタートです。
 上人橋上の河川敷でダイサギが3羽、相変わらずここはサギの好きな場所のようです。
 小さめなハシブトカラスが6羽芝生で採餌していました。カラス類が増えている気がします。
 公園の芝生内の桑に大木は、鳥たちは好きなようです。いつも何かしら声がしています。今日はツグミ2羽、シメ4羽、カワラヒワ5羽、モズ1羽、次々に現れては飛び立ちました。
 ワンド跡も鳥がたくさん隠れているのですが、今日は、スズメ100羽+のみ、飛びこんだのが確認出来ました。
 公園の川の中州でツグミ2羽、イカルチドリ2羽、セグロセキレイ5羽、ハクセキレイ4羽、ダイサギ2羽、上空にカワウまで現れました。
 それとシメが、両岸を行き来していて5羽、土手のエノキでも1羽、さきほどの場所と合わせると10羽になりました。同じものをカウントしている危険もあるのですが、今年は多い気がします。 
 調整池のヒドリガモは、いつもの西池に11羽、東に16羽と別れていました。ここでもカワセミが一瞬飛んで、西池の取水口に留ってしばらくいてくれました。
二杉橋近くでは聞こえませんでしたが、大岩橋の近くの山林でウグイス地鳴き聞きました。
 大岩橋の上から、河川敷林を覗くと、シジュウカラ2羽、メジロ1羽、至近距離で見えました。これは鳴き声が頼りです。
 大岩橋の北側から、河川敷林を見ている時、カワラヒワの25羽+が飛びました。カワラヒワの冬の情景です。
 滝沢ハムのクヌギ林では、ホオジロ1羽とコゲラ1羽のみでした。
 合流点から泉橋までの間は、河川工事をしていないので、ダイサギ2羽とモズが1羽確認できました。
 赤津川に入り、田でツグミが1羽、岸の草むらでジョウビタキ1羽、ジョウビタキも普通はチッチと鳴くのをここで初めて気づきました。我が家の庭ではいつも、もっと強いタクタクという感じの音を立てています。
 カルガモ6羽、4羽とコガモ2羽、バン1羽、カイツブリ1羽、いくらか残った川の工事の無い部分を探すようにして生きている気がしました。
 永野川西岸を下ってくる途中でホオジロ2羽とカワラヒワが3羽、梅の木の上に留っているのを見つけました。
 シメを始め、鳥が多かったと思います。条件が悪くなっても頑張っているような気がして、嬉しかったのですが、早く工事が終わって、元の川が戻ってほしいと思います。もとには戻らないかもしれませんが。
 
鳥リスト
カルガモ、コガモ、ヒドリガモ、カイツブリ、カワウ、ダイサギ、アオサギ、イカルチドリ、コゲラ、モズ、ハシボソカラス、ハシブトカラス、シジュウカラ、ヒヨドリ、ウグイス、ツグミ、スズメ、ジョウビタキ、セグロセキイ、ハクセキレイ、カワラヒワ、シメ、ホオジロ

 







永野川2016年11月中旬
18日
  気温も大分低くなってきましたが、雲ひとつない好天です。9:30ころ出かけました。
 二杉橋から入ると、上流が工事中で川止めしているらしく水が澱んでいます。橋のすぐ上でマガモ7羽、カルガモ3羽発見、コガモが増えて来たようです。
 ダイサギ一羽、カイツブリ2羽、ウグイスが2か所で地鳴き。ウグイスは大砂橋近くの藪でも聞こえました。
 睦橋の手前でアオサギ1羽。カワセミ1羽も岸の木に飛び上がりしばらく留っていました。
 睦橋から上人橋まではずっと護岸と川底の工事中で、鳥は見えませんでした。
 上人橋のすぐ下の草むらでアオジかと思われる地鳴きを聞きました。大岩橋の河川敷林でも同様の声を聞きました。
 上人橋近くの山林でカケスの声がして、一瞬羽の色が見えました。
 公園の芝生にハクセキレイ2羽、セグロセキレイ1羽が走っていました。
 芝生の中の桑の大木にシジュウカラが5羽、ヒヨドリが2羽、見えました。後ろを振り返ったら、土手の桜並木でエナガの声だけきこえたので、方向を変えて南へ行き、エナガ12羽確認できました。このところエナガに会うことが多く嬉しいのですが、バードリサーチのお話では、雑木林が減って来て近郊の疎林に進出せざるを得ないのかもしれないとのことで、喜んでばかりもいられないのかもしれません。
 児童遊園の近くの芝生にツグミが5羽、いつものよい姿勢で、点々としていました。冬にみかける風景です。ツグミも数が増えて来ました。
 調整池にはヒドリガモ25羽、カルガモ3羽、カイツブリが1羽でしたが、カイツブリがヒナの成長したものだかどうか、区別がつかなくなっていました。今日はカイツブリが多く赤津川で5羽、全部で8羽確認できました。
 公園に戻ると、桑の大木でシメ2羽、中州でセグロセキレイ2羽見つけて休んでいると、カワセミが2羽、鳴きながら下って来て、1羽が岸に留っていてくれました。
 大岩橋上の河川敷林ではシジュウカラが5羽見えました。
滝沢ハムのクヌギ林で、チ、チという少し太い声がして、何かと迷っていると、シメが現れました。思いがけず7羽もいて目を疑いました。キジバトも飛びました。
 赤津川に入ると、カルガモが今回は東岸に並んで7羽、27羽、3羽の群れを作っていました。
 ダイサギが3羽飛びあがりましたが、しばらくして戻った時も一緒にいました。小さめなので、あるいは若鳥の兄弟でしょうか。この大きさからして、繁殖期はいつなのでしょう。
 赤津川も泉橋から上流の両岸の法面の草が根こそぎという感じで刈り取られていました。いつもオオジュリンを見つける土手ですが、今年は望めそうもありません。何故、この時期、この田園の中で伐採なのか、護岸工事の場所もあるようですが全部ではありません。今日も赤津川はセグロセキレイ2羽、シジュウカラ1羽、キセキレイ1、アオサギ1羽を見つけただけでした。
 バードリサーチから聞いた国交省の見解は、洪水の発見を早めるために法面の草はなるたけ刈り取っているとのことでした。植物の根は土止めの役割を果たしていると思いますがこれでは洪水を助長するようなものではないのでしょうか。
 永野川との合流点でカワセミが1羽、堰にじっと留っていました。今日はこれで4羽目、幸せでした。
永野川を下ってくるとアオサギが2羽、工事現場に埋もれるように佇んでいました。
 今日は初めて、私のブログを読んで下さっている方とお話できました。実に稀な幸運です。ブログは宛先の無い手紙のようなものですので、やっと届いた手紙という感じです。できるだけ正確な記述を心掛けて、皆さんに読んでもらえるブログにしたいと思います。
 
鳥リスト
カルガモ、コガモ、ヒドリガモ、カイツブリ、キジバト、ダイサギ、アオサギ、モズ、ハシボソカラス、ハシブトカラス、カケス、シジュウカラ、ヒヨドリ、ウグイス、エナガ、ツグミ、スズメ、セグロセキイ、ハクセキレイ、キセキレイ、シメ、ホオジロ、アオジ

 
 







永野川2016年11月上旬
6日
 陽がさすと汗ばむほどのよい天気、9:00頃出かけました。
 二杉橋から入ります。
 西岸、橋際と少し登った所と、2か所でウグイスの地鳴きを聞き、ヒヨドリ2羽、キジバト1羽、アオサギ1羽が飛び過ぎました。
岸の草むらで、ホオジロらしい地鳴きが聞こえ、1羽が顔を出したので確認できました。
 カルガモが陽のあたる方の西の岸の草むらの下に隠れるように9羽並んでいました。鳥の活動に適した温度というものがあるでしょうか。ある程度温かくならないと活動しないのでは?と思うのは、朝が不得意な私の言い訳ですが。
 道路をハクセキレイが蛾を追いかけながら横切って捕食しました。セキレイのこういう姿は初めて見ました。
 また河川工事―護岸と川の掘削―が始まりました。今日は休工中で、川の中に土が盛りあげられている上に、セグロセキレイが2羽、間隔を置いて留っていてしばらく動きませんでした。
 公園に入ると、川でダイサギが1羽、コガモが1羽。イソシギが鳴きながら登っていきました。いつもこういう場面に遭遇するのは、イソシギの習性だからでしょうか。
 ワンド跡は、大分草むらが枯れて来て、ヨシやススキがはっきりしてきました。美感からいえば、ヨシやススキがずっとよいのですが、草むらは鳥たちの隠れ場です。小鳥の声が複数聞こえてきました。カワラヒワとともに、メジロ2羽の姿が見えました。我が家には来きますが、ここで見るのは初めてでした。
 カワラヒワは3羽くらいずつ川を横切りながら上下しています。これは何か意味があるのでしょうか。突然15羽の群れが飛び立ち北の方へ消えて行きました。
 少し登った川沿いのハリエンジュの大木に、今季初のシメ発見、隣の枝にこれも今季初のツグミ発見、そこにモズの鳴き声がして、いっせいに飛び立ったのはシメ3羽とツグミ1羽でした。
 下の草むらからホオジロ風の鳥が飛び立って先端に留りました。太陽にあたって、背中の赤褐色が特別輝いて見えたので、何か別種かと思いましたが、やはりホオジロの♀のようです。
 林の方でトビらしいのですが尾が細い気もする猛禽が1羽舞って消えました。
 調整池の東で、多分この前生まれたものと思われるカイツブリが戻っていました。すっかり大きくなり、顔の模様も消えましたがまだ灰色です。
 西の池にはヒドリガモが46羽になっていました。
 大岩橋から上って行くとジョウビタキの♀、電線で縄張り宣言中でした。
 大砂橋に近いところでキセキレイが1羽、体形と鳴き声ともに少し細めで、黄色を見る前になんとなく確認できました。
 山林にはカケスの声がし、モズも3羽いました。
 赤津川に入ると、カルガモが少し増え、10羽、7羽、の群れも見えました。
 瓦工場あとの空き地に、アオサギとダイサギがペアのように並んでいました。いつもこの辺で見る光景ですが、同じ個体なのでしょうか。
 泉橋近くでカイツブリ2羽、アオサギ1羽、おなじみです。
 錦着山裏の田んぼの電線に、スズメ30羽の群れが留っていたところに、大群が川の方から来て、全部で105羽になりました。この辺では、以前に1度見たことがありますが、この数は珍しいことです。既に田には穀物は無いのですが、何を表すのでしょう。
 川を下ってくるとホオジロ1羽、少し下ってジョービタキ♂1羽、二杉橋付近には、この前のようなカルガモの群れはいませんでした。
 風の中に、いろいろな鳥の小さな声を聞く季節になりました。それだけで楽しいことですが、声の主が確認できればもっと楽しいのですが。
 
鳥リスト
カルガモ、コガモ、ヒドリガモ、カイツブリ、キジバト、ダイサギ、アオサギ、イソシギ、トビ、モズ、ハシボソカラス、ハシブトカラス、カケス、ヒヨドリ、ウグイス、エナガ、メジロ、ツグミ、スズメ、セグロセキイ、ハクセキレイ、キセキレイ、カワラヒワ、ホオジロ

 







「ポラーノの広場」―風と追憶が生み出すもの  (三)
6、風の中のユートピア―風と草穂
 
  1か月の出張を終えて帰った9月1日の夕方、キューストを待っていたのは、なんとファゼーロでした。ファゼーロは8月10日には帰って、キューストを待っていたそうです。
 そして失踪中の事実はこうでした。
 どうしても雇い主のもとに帰れなかったファゼーロはそのまま出奔しました。夜道を歩きつづけていた時、皮革業者に助けられ、仕事を手伝いながらセンダ―ドまで行き、皮革の技術を習得したのでした。そして警察の捜索の結果、帰って来たのだそうです。
 雇い主からも自由になったファゼーロは、村の人々と森で皮革やハム造りの仕事をするつもりと言います。キューストはすぐにファゼーロとともにその「広場」に急ぎます。野原は風も無く草は穂を出し、つめくさの花は枯れていました。
 そこで会った農夫から、デステゥパーゴの真実を聞かされます。決して落ちぶれてはいないで、センダ―ド近くにたくさんの土地を持っていること、会社に財産をつぎ込んだのでは無くて、会社の株がただ同然になって遁げたこと、デステゥパーゴは大掛かりな密造酒、危ない混成酒工場を2年もやっていたこと……、農夫たちも共謀の弱みがあるのでおおっぴらに追求できないが、残された工場を利用して、新しい産業を始めようということ……。キューストはここではまだ半信半疑でした。
 
 わたくしどもはどんどん走りつゞけました。
「そらあすこに一つ、あかしがあるよ。」ファゼーロがちょっと立ちどまって右手の草の中を指さしました。そこの草穂のかげに小さな小さなつめくさの花が青白くさびしさうにぽっと咲いてゐました。
 俄かに風が向ふからどうっと吹いて来て、いちめんの暗い草穂は波だち、私のきもののすきまからはその冷たい風がからだ一杯に浸みこみました。
「ふう。秋になったねえ。」わたくしは大きく息をしました。ファゼーロがいつか上着は脱いでわきに持ちながら
「途中のあかりはみんな消えたけれども……」おしまひ何と云ったか風がざぁっとやって来て声をもって行ってしまいました。
「まっすぐだよ、まっすぐだよ。わたくしはあれからもう何べんも来てわかってゐるから。」わたくしはファゼーロの近くへ行って風の中で聞えるやうに云ひました。ファゼーロはかすかにうなづいてまた走りだしました。夕暗のなかにその白いシャツばかりぼんやりゆれながら走りました。
 
 ファゼーロの後をついて広場に向かって行くと、昔の名残のように咲く小さなつめくさをファゼーロとともに確認します。
 そして風が吹いて来ました。それは冷たい風でした。ファゼーロのいう〈「途中のあかりはみんな消えたけれども……」〉は〈おしまひ何と云ったか風がざぁっとやって来て声をもって行ってしまい〉ます。ファゼーロは何と言おうとしたのでしょう。作者はなぜそれを消したのでしょう。
 おそらく「でも道はついているよ」という意味でしょう。作者はそれを最後までキューストには知らさず、辿りつく過程を書きつづけたのでしょうか。
 
 風は、闇の中のはんのきを〈次から次と湧いてゐるやう、枝と枝とがぶっつかり合ってじぶんから青白い光を出しているやう〉にみせ、また〈のはらはだんだん草があらくなってあちこちには黒い藪も風に鳴りたびたび柏の木か樺の木かがまっ黒にそらに立ってざわざわざわざわゆ〉らし、風は次々に現れる舞台を演出します。
 工場は、デステゥパーゴの工場の跡地でした。木材の乾留装置で、薬品の代わりに酢酸を作り、その過程で出来る煙を使って、密造酒を作っていた部屋でハムを作る計画が、話し合われていました。
 
「さうだ、ぼくらはみんなで一生けん命ポラーノの広場をさがしたんだ。けれどもやっとのことでそれをさがすとそれは選挙につかふ酒盛りだった。けれどもむかしのほんたうのポラーノの広場はまだどこかにあるやうな気がしてぼくは仕方ない。」
「だからぼくらはぼくらの手でこれからそれを拵えやうでないか。」
「そうだ、あんな卑怯な、みっともないわざとじぶんをごまかすやうなそんなポラーノの広場でなく、そこへ夜行って歌えば、またそこで風を吸へばもう元気がついてあしたの仕事中からだいっぱい勢がよくて面白いやうなそういうポラーノの広場をぼくらはみんなでこさえやう。」
「ぼくはきっとできるとおもう。なぜならぼくらがそれをいまかんがえてゐるのだから。」
「さあよしやるぞ。ぼくはもう皮を十一枚あそこへ漬けて置いたし、一かま分の木はもうそこにできてゐる。こんやは新らしいポラーノの広場の開場式だ。」

 
 それは、本当の〈ポラーノの広場〉でした。ファゼーロ、ミーロ、年寄達にとっても、そしてキューストにとっても、ユートピア、そして大きな目標のはじまりでした。
それは〈「ぼくはきっとできるとおもう。なぜならぼくらがそれをいまかんがえてゐるのだから。」〉―考えていることはすべて実現できる―という明るい予感に支えられるものでした。  
 風は〈吸えば元気がつ〉く、ユートピアの条件として捉えられます。
〈酒を呑まずに水を呑〉んだ乾杯を、作者は次のように描きます。
 
「こんどは呑むんだ。冷たいぞ。」ファゼーロはまたみんなにつぎました。コップはつめたく白くひかり風に烈しく波だちました。
「さあ呑むぞ。一二三、」みんなはぐっと呑みました。私も呑んでがたっとふるへました。

 
 ここでも風は、一つの情景を作ります。〈白く冷たく波立つ〉世界は、みんなの心にある、これからの厳しさへの予感だと思います。そのような予感を抱きながらもなお、希望に燃えている心を描くために、冷たい水が用意されたのだと思います。
 そして、みんなで歌った〈ポラーノの広場のうた〉も風は持って行ってしまいます。それは、いつ消えるかわからないユートピア、しかし、しっかり掴まえておかなくてはならないもの、という暗示かもしれません。

 
 そして私たちはまっ黒な林を通りぬけてさっきの柏の疎林を通り古いポラーノの広場につきました。そこにはいつものはんのきが風にもまれるたびに青くひかってゐました。わたくしどもの影はアセチレンの灯に黒く長くみだれる草の波のなかに落ちてまるでわたくしどもは一人づつ巨きな川を行く汽船のやうな気がしました
 
 夜の野原の草の波を作る風の中で、なぜか作者は皆が一人づつ大きな川の中を行く汽船の様だと言います。それは草の波に埋もれる実風景かも知れませんが、個々の人と、とその共同体、を表している様にも思えます。それこそが一番大切なものだと。
 
 いつものところへ来てわたくしどもは別れました。そこにほんの小さなつめくさのあかりが一つまたともっていました。わたくしはそれを摘んでえりにはさみました。

 
「それではさよなら。また行きますよ。」ファゼーロは云ひながらみんなといっしょに帽子をふりました。みんなも何か叫んだやうでしたがそれはもう風にもって行かれてきこえませんでした。そしてわたくしもあるきみんなも向ふへ行ってその青い風のなかのアセチレンの火と黒い影がだんだん小さくなったのです。
 
 最後のみなの叫びは風が持って行ってしまい、キューストのところには、聞こえませんでした。最後を吹く風は〈青い〉風でした。プロローグの〈青いむかしふうの幻燈〉と同じように、最終的には、この場面はキューストの中に、一つの幻想のように残されていたのではないでしょうか。
 
 ここで問題となるのは、最終稿で削除される初期形です。そこではキューストは未来に向けての理想を述べ自分もファゼーロたちの仲間になりたいと言いながら、すぐに否定し、ファゼーロの姉ロザーロへの想いを確信すると同時に吹き消しています。
 この理想は、熱く読むものの心をとらえるものですが、物語の展開からすると、少し生硬だと思われます。また迷いの心が現れて、作者の納得できるものではなかったのかもしれません。
 物語の先駆形「ポランの広場」との関連とともに、次の稿に詳察したいと思います。
 
7、みんなのユートピアとキューストの今―エピローグ
 
 それから7年たちました。ファゼーロたちの組合は、苦難の中にも、〈面白く〉続いて3年後からは、〈立派な一つの産業組合〉を作って、ハムと皮革、酢酸、オートミールなどをモリーオやセンダ―ドまで販路を拡げていました。
 キューストは、組合の手助けや助言をしていましたが、仕事の都合でモリーオを離れ、農事試験場や大学で仕事を転々とした後、トキーオの新聞社で博物のコラムを書く生活をしています。そんなある日、キューストの所に、「ポラーノの広場のうた」の楽譜が届きます。 
 
ポラーノの広場のうた
 
   つめくさ灯ともす 夜のひろば
   むかしのラルゴを うたひかわし
   雲をもどよもし  夜風にわすれて
   とりいれまぢかに 年ようれぬ
 
   まさしきねがいに いさかふとも
   銀河のかなたに  ともにわらい
   なべてのなやみを たきゞともしつゝ、
   はえある世界を  ともにつくらん
 
 それは、見ただけでファゼーロ、ミーロ、ロザーロの歌とわかるものでした。
 それは、〈つめくさ〉の広場に、共に悩み、苦労の末につくりあげる〈栄えある世界〉がえがかれています。それは、ファゼーロたちとともにキューストも夢見たユートピアそのものです。
 ユートピアを作り上げたファゼーロたち、援助という形でしか参加できなかったキュースト、作者はそこに理想を作るものは実際に汗する人たちであることを、ある悲哀を持って書きつづったと思います。
 それがこの物語の放つ哀愁の根本となっていると思います。
 そこに作者の実人生を重ねることは簡単ですが、敢えて、物語の展開にのみ即して考え、作者が何を訴えたかったのか、今後も考えたいと思います。

 







永野川2016年10月下旬
25日
 薄曇り状態で気温が上がりません。
でも永野川岸を遡っていると日向ではコートが不要になりました。
公園の調整池のカイツブリはいなくなりました。もう飛べるようになって別の水辺に移って行ったのでしょうか。
 二杉橋から入りましたが、鳥影がありません。一瞬、ピーと鳴いて遡っていったのはイソシギでした。少し登った岸の草むらの下にコガモ4羽、この前より2羽増えています。
 中洲のあるところではセグロセキレイが1羽、2羽と飛びました。
一瞬、カワラヒワ10羽が川岸飛び立って西へ消えました。今冬初めて、確実な季節の変わり目です。
 上人橋の近くの川岸の草むらからキジ♂が2羽飛び立ってまた消え、近くの山林では珍しくコジュケイの声がしました。
その方向からカケスが1羽錦着山をめざして飛びました。錦着山にも棲息しているのでしょうか。
 以前も多数のカケスが移動していたことがありました。通り道なのに錦着山へはめったに昇りませんが、本当は観察範囲に入れてもよいのかもしれません。山の裏でトビが1羽舞いました。
 公園に入ると芝生をハクセキレイ3羽が歩いていました。
 川に、珍しくキセキレイ1羽水辺を歩きながら上に移動していき、それと絡まるようにセグロセキレイ3羽が動きます。ダイサギ1羽が川のなかで採餌していました。
 ハシブトカラスが10羽、空を旋回しました。ここでは珍しいことです。なにかあったのかもしれません。

 私が公園のシンボルと思っていたヤナギの大木がついに伐採されていました。昨年の台風で川を三分の一ほど覆う形で傾きながら生きていたので、伐採は仕方のないことかもしれません。
 枝は鳥の中継場所のようで、アカゲラやベニマシコなども来ていましたし、シメの見える場所と認められていました。木陰には多くの水鳥が来ていたし、水辺の枝は絶好のカワセミのポイントでした。また岸には草むらが深く、クイナが潜んでいたこともあったのですが、木と一緒に皆きれいになってしまったようです。
 少し上流の桑の大木が心配で見に行くと、カワセミが下って来て川岸に留りました。
 ここも岸がかなり削られて次の洪水では流されるかもしれません。土が露わになっているところには、いくつかの穴が見え、もしかして巣穴かもしれませんが、これでは外敵を防ぎようがありません。この木だけはなんとか残ってほしいと思います。
 民家のカシの木にヒヨドリ7羽、オナガ1羽、カケス1羽が争っているようでした。
 東の調整池にはアオサギ1羽、西にはヒドリガモが増えて17羽になりました。
 大砂橋近くの竹やぶでウグイス地鳴き、大岩橋近くでモズが3羽、川にはダイサギ2羽、カケスの声もしています。
 大岩橋の近くの北岸の林から道を挟んだサクラ並木に、エナガが24羽鳴きながら飛び川下へ再び移動していきました。こんなに多数見たのは初めてです。
 滝沢ハムのクヌギ林でシジュウカラ2羽、今日は静かでした。
 赤津川に入るとカルガモが、9羽、7羽、2羽……と多くなりました。
 永野川を下ってくると、ヒヨドリが27羽の群れ、オナガ19羽の群れが、西に移動していきました。オナガの群れもここでは珍しいことです。
 二杉橋の下にも今季初めて、カルガモが集まって来て、14羽、22羽の二群れが見えました。
 
 この10日間に、公園ではまた草が刈り取られて、冬の鳥の隠れ場はもうできなくなります。夏に枯葉剤が撒かれなかったのは救いでしたが、この時期の草刈りはどうしてもやめられないのでしょうか。
 カモも増え、カワラヒワも来ていよいよ冬鳥のシーズンです。
 
鳥リスト
キジ、コジュケイ、カルガモ、コガモ、ヒドリガモ、カイツブリ、ダイサギ、アオサギ、イソシギ、トビ、カワセミ、モズ、ハシボソカラス、ハシブトカラス、カケス、オナガ、シジュウカラ、ヒヨドリ、ウグイス、エナガ、スズメ、セグロセキイ、ハクセキレイ、キセキレイ、カワラヒワ、