宮澤賢治、風の世界

宮澤賢治の作品を彩る言葉と風を追って宮澤賢治の世界を訪ねよう。 賢治は風という言葉に何を託したか。風を描くためにどんな言葉を選んだか。 賢治は何を求めて風の中に身を置いたのだろう。 そこに少しでも近づきたくてページを埋めていく。
 
永野川2022年8月下旬
29日  5:30〜7:30 薄曇 19℃
 
  曇の予報でしたが、晴れる予感もあったので、出かけました。
 錦着山裏から入ります。
 田んぼ脇の電線に、スズメ28羽が群れていました。久しぶりです。稲の実りのシーズンが近いのでしょう。
 保育園脇の川沿いの道を通れるようになったので、合流点を別の方角からみようと、行ってみましたが、残念ながら、前回のように鳥はいなくて、セグロセキレイが2羽いたのみでした。
 赤津川の田で、ツバメが30羽纏まって旋回していました。群れに入らないものも2羽ほどいたので、別種―例えばイワツバメか、と思いよく見たのですが、腰の白さはありませんでした。いつも見るツバメよりも腹部が白く太めで、一見イワツバメかと思ってしまいました。バードリサーチのお話では、若鳥はまだ郊外の河川などで群れているとのことでした。ネットで確認すると、若鳥は胸の赤みも薄く全体に丸みを帯びているとのことで納得できました。
 モズが所々で鳴いていました。こちらももうじき高鳴きのシーズンでしょうか。セッカもまだ鳴いています。チュウサギは3羽きていました。
 ゴイサギの幼鳥が川を2羽、1羽とくだって行きました。今年は多い気がします。やはりコロニーの影響でしょうか。コロニーが何時からあるか知りたいのですが、現場で人に会ったことがありません。
 合流点には、ダイサギが2羽、チュウサギ1羽のみでした。
 滝沢ハムの池の周囲の高い草が刈られ、近づけるようになりました。池にコサギ1羽、ダイサギ1羽、カルガモ4羽がいました。縁でキジバト3羽が一緒に行動していました。小さめで、一緒に行動しているのは、幼鳥でしょうか。
 公園の草地に、渡りの途中の鳥がいないかと思い、近くを歩いてみました。草地のすぐ側の草刈りが終わったばかりのところに、久しぶりにキジが1羽来ていました。他の鳥は見つかりませんでした。
 大砂橋近くの川岸に降りたら、イカルチドリらしいもの5羽飛び立ちました。川岸にいると思わず近づいてしまい逃げられそれ以上の確認ができませんでした。こんなにたくさん一度に見るのは初めてです。今後は重要な水辺の鳥の場所として、注意して動こうと思います。
 岸の草の中でホオジロの、はっきりした地鳴きの声が聞こえました。
 ここでも、山林近くでモズが、かなり大きな声で鳴いていました。
 ガビチョウは少し遠い山林で2カ所ごく普通に静かに鳴いていました。
 公園の池は、依然として水が退いていて、チュウサギ1羽のみでした。
 永野川では、工事もまだ始まっていない時間で前と同じ条件なのに、セグロセキレイが、1羽、2羽、1羽、ツバメ5羽、のみでした。
赤津川を別としてもツバメ多い日でした。
 鳥種の少ない日でしたが、ツバメの幼鳥の群れを確認出来たことは嬉しことでした。
 
キジ: 公園の草地で1羽。
カルガモ:滝沢池で4,合流点で4,赤津川で2,計10羽。
カワウ:滝沢ハム池1羽。
キジバト:滝沢ハム池付近で3羽。
アオサギ:赤津川1羽、滝沢ハム池で1羽、計2羽。
ダイサギ:合流点で2羽、公園で1羽、滝沢ハム池で1羽、計4羽。
ゴイサギ: 赤津川で幼鳥3羽。
チュウサギ:赤津川で3羽、合流点で1羽、 公園池で1羽、計5羽。
コサギ:滝沢ハム池に1羽。
イカルチドリ: 大砂橋少し下の中洲に5羽。
モズ: 大岩橋河川敷林に2羽、赤津川2羽、計4羽。
スズメ:錦着山裏の田の電線で28羽の群れ。
ハシボソカラス:特に目立つ群れはいなかった。
ハシブトカラス: 特に目立つ群れはいなかった。
ツバメ:赤津川田に30羽の群れ、1羽、1羽、永野川5,1羽、計38羽。
ヒヨドリ:特に目立つ群れはなかった。
セッカ:赤津川田で1羽。
セグロセキレイ:永野川二杉橋〜上人橋で1羽、2羽、1羽、合流点で2羽、赤津川で2羽、計8羽。
ホオジロ:大砂橋近くの川岸の草むらで1羽地鳴き。
ガビチョウ:大岩橋山林付近2羽。
 
7:30ころ、サギのコロニーは、白いサギが多いが、あまり上部の目立つところにはいませんでした。
 
付記
 我が家の庭で、キジバトが営巣始め、28日2羽の雛が見えました。初めて見た雛は黄色い産毛に覆われていて親鳥もいました。雛は動いていましたが、声は出さないのを初めて知りました。
 けれども、29日には、親がいないことが多く、雛も1羽しか見えず、あまり動いていない気がします。近くにカラスもいて、襲われたのか、と心配です。
 

 







永野川2022年8月中旬
滝沢ハムのクヌギ林で、白くて10センチほどあるキノコが10本ばかり群生していました。ここでは初めて見ました。帰って調べると、キチャハツのようです。ブナ科の林に生える、とありました。
20日
5:00〜7:30 薄曇 20℃
 
曇りがちでしたが、次第に晴れ、明るく過ごしやすい朝でした。
今日は水辺が豊かでした。
二杉橋上は、カルガモ3羽、カワウ1羽、セグロセキレイ、ハクセキレイ幼鳥などが、飛び交い、上空をダイサギが南の方角に8羽下っていきました。
公園の調整池は水が抜かれて、浮いていた水草が繁って湿地状態になっていました。そこにダイサギ20羽、チュウサギ5羽、アオサギ3羽で、水面が一面覆われている、と言った感じでした。ここでのサギの群れは初めてです。コロニーから飛来しているのかも知れません。
合流点にかなり広い浅瀬が出来ていました。
カルガモ4羽、カワウ2羽、ダイサギ1羽、アオサギ2羽、コサギ1羽、それから久しぶりにイソシギが2羽、ハクセキレイ2羽、かなり多様です。これから期待しても良さそうです。それに加えて、圧巻はカワセミ、2羽が追いかけるように、飛び立っていきました。
公園の川で、前回よりは少し小さいカルガモ5羽と親のファミリーを見つけました。今年は3組のファミリーを見つけたことになり、欠けたのは1羽のみ。無事に育っていました。
大岩橋と大砂橋の中間くらいから川辺に降りることが出来ました。
中洲にイカルチドリ2羽、セグロセキレイ2羽、広い川原もあり、これからはスポットになりそうです。
公園のワンド裏の水辺に行ってみたら、思いがけずカワセミ1羽、岸辺に留っていて、その後川でフォバリングののち上流へ飛んで行きました。ここもよいスポット、とあらためて思います。
赤津川ではまだセッカの声が聞こえました。
公園ではシジュウカラが鳴き始めました。ウグイスの囀りは聞こえなくなり、ホオジロもワンド跡で1羽囀るのみでした。
ツバメもあちこち合わせて3羽のみ、季節が静かに変わっていきます。
 
サギのコロニーは、5:00の時点では、まだあまり樹上には出ていなかったのですが、声は相変わらず賑やかでした。
 
 
キジ: 合流点すぐ上の田の岸に1羽。
カルガモ:二杉橋から上人橋3羽、公園に6羽のファミリー、2羽、合流点4羽、計15羽。
カワウ:二杉橋付近で1羽、合流点で2羽、計3羽。
キジバト:睦橋付近岸辺の木で2羽。
アオサギ:公園東池に3羽、合流点に2羽、計5羽。
ダイサギ:二杉橋上空8羽、公園池に20羽、合流点に4羽、計32羽。
チュウサギ:公園東池に5羽、赤津川田に2羽、計7羽。
コサギ:合流点に1羽。
イカルチドリ:大砂橋少し下の中洲に2羽
イソシギ: 合流点に2羽。
モズ: 大岩橋河川敷林に2羽、赤津川2羽、計3羽。
カワセミ:ワンド裏の川に1羽、合流点に2羽、計3羽。
スズメ:特に目立った群れはなかった。
ハシボソカラス:特に目立った群れはなかった。
ハシブトカラス:特に目立った群れはなかった。
ツバメ:赤津川1羽、公園1羽、大岩橋付近1羽、計3羽。
ヒヨドリ:群れはなかった。
セッカ:赤津川田で1羽。
ハクセキレイ:二杉橋〜上人橋1羽、合流点で2羽、計3羽いずれも幼鳥。
セグロセキレイ:永野川二杉橋〜上人橋で1羽、1羽、1羽、3羽、公園で2羽、2羽、大岩橋河川敷で2羽、合流点で1羽、計13羽。
シジュウカラ: 公園で1羽の声。
ホオジロ:公園ワンド跡で1羽。
ガビチョウ:二杉橋付近で1羽、大岩橋山林付近電線で1羽、計2羽。

 







永野川2022年8月上旬
10日 5:30〜7:30 晴 24℃
 よく晴れて、家を出たとき、すでに暑さを感じました。
 錦着山裏の田には、ほとんど鳥がおらず、ツバメが2羽、舞っていました。
 赤津川に入ると、突然のようにカルガモ1羽浮いていました。
 田ではセッカがよく鳴いていて、2カ所で、下降音で鳴いていました。
 どこかでモズが短く鳴いていて、かなり離れた場所、2カ所で聞きました。
 ハクセキレイが2羽飛び交います。
 水田に、チュウサギ2羽、先回11羽見かけたところです。他には、アオサギの幼鳥1羽のみでした。
 
 合流点で、ここで初めて、ガビチョウの声が聞こえました。た。増えているのだと思います。
 中洲で、セグロセキレイが2羽、活発に動いていました。イカルチドリも3羽纏まって動いていました。少し水の量が少なかったせいか、泳ぐ鳥はいませんでした。
 公園の上空を横切って、ムクドリが25羽が南へ飛んで行きました。
 大岩橋に近いところで、かなり大きな声でウグイスが囀っていました。今日はここのみでした。
 大岩橋河川敷林でもガビチョウが2カ所で囀っていました。
 大砂橋近くの川でダイサギ1羽、ここはサギの穴場のようです。
 
 公園のワンド跡は、ホオジロが、3カ所で囀っていました。
 川の中洲に隠れるようにいる、カルガモの群れを見つけました。もう親と雛の区別がつかないくらい大きくなっていますが、9羽と3羽のファミリーです。確か、以前、大岩橋上流で見たものが無事大きくなっているのだと思います。3羽のファミリーの方は1羽欠けたようですが、無事に成鳥出来るのも間近でしょう。嬉しいことです。
 
 上人橋の上から上流を見ると、水が豊かで、ダイサギと少し離れてコサギが1羽ずついました。コサギは羽繕いしていて、ようやく足先の黄色が確認出来ました。
 永野川を下ってくるとハクセキレイ、2羽、1羽、2羽、1羽と舞い、今日は、全部で、9羽になりました。セグロセキレイも、1羽、3羽、2羽、1羽、と、公園を合わせて12羽となり、セキレイ類が元気でした。
 日の出時刻が少しずつ遅くなり、合わせて出るとかなり暑くなってきます。もう少し早めに出た方がよいのかも知れません。
 
 土手のキツネノカミソリが1カ所だけ残って花をつけていました。ここが豊かに自然が残っていたことの名残で、嬉しく写真に収めました。
 
カルガモ:赤津川1羽、 公園川で、9羽、3羽のファミリー、永野川1羽、計14羽。
アオサギ:赤津川田に幼鳥1羽。
ダイサギ:上人橋上の水場に1羽、大砂橋付近に1羽、計2羽。
チュウサギ: 赤津川田に2羽。
コサギ: 上人橋上の水場に1羽。
イカルチドリ:合流点の中洲で3羽。
モズ:赤津川に2羽。
スズメ:特に目立った群れはなかった。
ムクドリ: 公園上空を横切って25羽。
ハシボソカラス:特に目立った群れはなかった。
ハシブトカラス: 特に目立った群れはなかった。
ツバメ:錦着山裏の田で2羽、赤津川2羽、2羽、公園2羽。計8羽。
ヒヨドリ:特に目立った群れはなかった。
ウグイス:大岩橋近くの公園に1羽。
セッカ: 赤津川水田に2羽。
ハクセキレイ:赤津川2羽、合流点1羽、永野川2羽、1羽、2羽、1羽、計9羽。
セグロセキレイ:公園2羽、合流点3羽、永野川二杉橋〜上人橋で1羽、3羽、2羽、1羽、計12羽。
ホオジロ:公園ワンド跡で1羽、2羽、計3羽。
ガビチョウ:合流点付近で1羽、大岩橋山林1,1,計3羽。
 
付記
サギのコロニーは、樹上には、白いサギが多く、他は、ゴイサギの幼鳥がめだった。
 







「図案下書」―足元の小さなものたちに吹く風―
   三五〇  図案下書 一九二五、六、八、
 
高原の上から地平線まで
あをあをとそらはぬぐはれ
ごりごり黒い樹の骨傘は
そこいっぱいに
藍燈と瓔珞を吊る
 
   Ich bin der Juni, der Jüngste.
 
小さな億千のアネモネの旌は
野原いちめん
つやつやひかって風に流れ
葡萄酒いろのつりがねは
かすかにりんりんふるえてゐる
 
漆づくりの熊蟻どもは
黒いポールをかざしたり
キチンの斧を鳴らしたり
せわしく夏の演習をやる
 
白い二疋の磁製の鳥が
ごくぎこちなく飛んできて
いきなり宙にならんで停り
がちんと嘴をぶっつけて
またべつべつに飛んで行く
 
ひとすじつめたい南の風が
なにかあやしいかほりを運び
その高原の雲のかげ
青いベールの向ふでは
もうつゝどりもうぐひすも
ごろごろごろごろ鳴いてゐる
 
 年表などには、この詩の背景となる事実は見つかりませんでした。
 ただ5月中には、5月7日に、生徒を連れて小岩井農場を訪れ、三三三「遠足統率」一九二五、五、七、が書かれます。つつどり、ウグイスが詠みこまれ、「ウグイスの折れ線グラフ」という語が登場します。
 5月10日、11日、森佐一と共に小岩井農場から岩手山に登り、一泊します。同じ日付を持つ詩に、三三五〔つめたい風はそらで吹き〕一九二五、五、一〇、三三六「春谷暁臥」一九二五、五、一一」、三三七「国立公園候補地に関する意見」一九二五、五,一一があります。
 〔つめたい風はそらで吹き〕では、「くらかけ山の凄まじい谷の下で」、「そんな木立のはるかなはてでは/ガラスの鳥も軋ってゐる」という同じ背景を感じさせる表現があります。
 この詩は、これらの体験を色濃く受け継いでいるのではないかと思います。種山ヶ原のような、標高の高い場所ではなく、高原から地平線までが見通せる場所で、発想されたと思われます。
 5月中の詩としては、三四〇〔あちこちあをじろく接骨木が咲いて〕一九二五、五、二五、三四五〔Largoや青い雲かげやながれ〕一九二五、五、三一、がありますが、平地における風の動きがたくさん見られます。のちに考察したいと思います。
 
 賢治は作品を何度も推敲することで知られています。賢治にとっては、より自分の心象に近い表現を求め、またより完成した作品にするためのもので、定稿を「是」としていたとは思うのですが、詩の背景を考えるため、賢治の思いを壊さない程度に、下書稿に当たってみたいと思います。詩に書き添えられた日時は詩の発想の時と考えられています。賢治が詩を推敲するとき、日時を変えることはありませんので、あくまで発想の時の思いを正確に記そうとする行為であると考え、解釈の助けにすることは出来ると思います。
 下書稿一ではタイトルは「蟻」で、「……おれのいまのやすみのあひだに/ Chitin の硬い棒を頭でふりまはしたり/ 口器の斧を鳴らしたりおれの古びた春着のひだや/しゃっぽにのぼった漆づくりの昆虫ども/ 山地のひなたの熊蟻どもはみなおりろ…」と、休憩中に体を這い上る蟻に閉口しいている姿のみ描かれます。
 下書稿二では「このおにぐるみの木の下に座ると/ そらは一つの巨きな孔雀石の椀で/ごりごり黒い骨傘には/たくさんの藍燈と瓔珞が吊られる……」と、蟻の記述はなくなり、登場する木がオニグルミであることが書き加えられ、作者が木の下に座って枝を見上げていることが分かります。
 下書稿三では、「……漆づくりの熊蟻が/黒いポールをかざしたり/ キチンの斧を鳴らしたり/せわしくそこをゆききする……」と風景の一部として蟻が描かれ、熊蟻だったことも記されます。
 定稿では「蟻が演習をする」という表現が加わります。

 定稿を最初から辿ってみます。
 オニグルミが赤い雌花と黄緑の雄花を咲かせています。オニグルミは雌雄同株で、5〜6月ころ、15cm〜20cmの黄緑の雄花の上に、花穂が直立した雌花が10個ほど上向きに赤い花を付けます。
 瓔珞は、菩薩や密教の仏の装身具で首飾りや胸飾り、仏壇や仏堂の荘厳具です。垂れ下がる雄花の様子を例えています。
 「藍燈」は、管見した限り、この詩以外での使用例や訳語がみつかりませんでしたが、漢字の読み「らんとう」を、灯りの「ランタン」に置き換えた賢治の造語ではないかと思います。ランタンは炎や電球部分をガラスなどで囲って保護して持ち運んだりできるにしたもので提灯も含まれます。こちらは上向きの雌花のたとえです。
 熊蟻はクロオオアリの別名、光沢の少ない黒色で、女王蟻は17oと大きく、交尾期の5月〜6月に羽蟻となって飛び立ちます。詩中には、羽蟻の記述はありませんが、交尾期の動きの活発な様を描いたのでしょうか。
 突然現れるドイツ語は何を表すのでしょう。Juniは6月、Jüngsteはjung(若い)の最上級です。賢治は時として表現上の技法のように外国語表記を使い、音のみに意味を持たせたり、文字の形を表現に使ったりします。この場合は、「6月」という季節と、自分の若さを感じ高揚する気分を表しているのかも知れません。
 「アネモネ」は、ここではオキナグサを差します。賢治が盛岡高等農林学校で学んだころのオキナグサの学名がAnemone cernua(のち、1940年に牧野富太郎によりPursatilla cernuaとなる。)であったことによります。(注1)。オキナグサを主題にした童話「おきなぐさ」では、オキナグサを「アネモネの従兄」としています。
 オキナグサは4月から5月ころ開花し、5月の終りころ花が終わると白くつややかな無数の冠毛をつけ、翁の髭のようなその様がオキナグサの名前の由来となっています。「アネモネの旌(はた)は/野原いちめん/つやつやひかって風に流れ」は、冠毛が風によって飛ばされる様を表して見事です。
 「葡萄酒いろのつりがね」はツリガネニンジンではないでしょうか。花は15o〜20oの釣り鐘型花を円錐形の花序に下向きに数個つけます。ただ花期は8月とされるので、その点に疑問が残ります。
 釣り鐘型の花としてホタルブクロがあります。花は4〜5センチで、3、4個つきます。花期は6〜8月ですが、この花は大きく梵鐘に似たかたちで、「貝の火」で、「カンカンカンカエコカンコカンコカーン」という見事なオノマトペで表現されます。この作品では、「リンリン」と鳴ると表現されるので、ホタルブクロには相応しくありません。やはりツリガネニンジンだと思います。
 「白い二疋の磁製の鳥」は何でしょうか。この詩以外にも、「磁製」という語は3例あり、鳥を表すもの一例、雪の形容1例、人の内面の形容1例です。
「黒い地平の遠くでは/磁製の鳥も鳴いてゐる 」(〔はつれて軋る手袋と〕一九二五、四、二(春と修羅第二集))では鳥の形容ですが鳴き声も含まれています。
 「野原はまだらな磁製の雪と/温んで滑べる夜見来川」(「一〇一四春」一九二七、三、二三、(春と修羅第三集)では雪の形容です。
 「この県道のたそがれに/ あゝ心象(イメーヂ)の高清は/しづかなな磁製の感じにかはる(〔高原の空線もなだらに暗く〕 「口語詩稿」)では人物の心の形容です。
 本質的には白磁の静謐さを感じているのだと思いますが、ここでは、鳥の空に映える白さを表すものかと思います。 
 では、この鳥は何でしょうか。日本野鳥の会の高松健比古さんに教えていただきました。以下抄録させていただきます。
 
 空中で停まっていること、嘴をぶつけ合ったことは下書稿すべて共通です。これは二羽の鳥が雌雄のつがいが、空中に停飛して求愛給餌 またはそれに近い行為をした、と考えられます。嘴をぶつけ合う、というのは、雄が雌に餌をプレゼントする、その行為か、或いは、すでに営巣・育雛中のつがいが、雄が運んできた 餌(魚や小型哺乳類、鳥類、両生爬虫類など)を雌に空中で渡す、受け渡しの場面、ということも考えられます。いずれにせよ、「何か餌(のようなもの)を片方の鳥から別な鳥に 空中で渡した」ということではないでしょうか。 
 仮にそうだとすれば、サギ類は、そのような行動はしません。考えられる鳥としては、コアジサシやタカ類・ハヤブサ類ですが、「白い鳥」とするとコアジサシが最も近いでしょうか。ただ、この場所が水辺ではなく、小岩井の近くの高原とすると、開けた環境だとしてもコアジサシコアジサシは、あてはまらないかもしれません。(営巣している水辺が近くにあった可能性はありますが)。また、コアジサシの飛び方を考えると、「ぎごちなく飛んできて」というのも、あてはまらないかもしれませんが、つがいの鳥たちが接近した時は、通常の飛び方ではなかった可能性があります。
 なお餌の空中受け渡しの場合、タカ類は多分足を使うと思うので、嘴をふれあうということはないかもしれません。
 また、この詩の鳥の動作が、攻撃など敵対行動と考えられるか、というと、それもありません。嘴は翼とともに、鳥にとって最も大事なものであり、それをぶつけ合う などということは直接生命が危険になり、あり得ないからです。
 また仮に「嘴をぶつける」ことはなく、ごく接近して二羽が並んで飛ぶ、と考えると、シギ・チドリ類(コチドリ、イカルチドリ、イソシギ、ケリなど)も考えられます。この場合、ケリは水辺から離れた草地や畑で繁殖するので、可能性があります。(「風林」と同時に 書かれた「白い鳥」のモデル候補はケリではないか、と考えています)。「ぎごちない」飛び方も、ケリならそう見えるかもしれません。
 いろいろ謎はありますが、この鳥たちの行動は、つがいの絆を強める動作であったことはほぼ確実です。もしかすると、賢治が注目したのはその動きで、実際には鳥は白くなかったこともありうるかもしれません。
 
 賢治の目には、一瞬、「磁製」と映った鳥の生命力が眩しかったのかも知れません。 
 こんどは、眼は雲の彼方を見ます。「青いベール」は山脈でしょうか。ツツドリの声は「ポポ、ポポ」、ウグイスも「ホーホケキョ」という特徴的な鳴き声で知られているものですが、それを「ごろごろごろごろ」と表すのはなぜでしょうか。もう鳴き声を取り立てていうこともないほど、続けざまに溢れるように鳴いていることを表すのかも知れません。のちにまた述べます。
  
 風の描写は、2例あります。
 
……
小さな億千のアネモネの旌は
野原いちめん
つやつやひかって風に流れ
葡萄酒いろのつりがねは
かすかにりんりんふるえてゐる
……
 
 ここでは風に乗って野原に舞う、無数のオキナグサの冠毛を描きます。「風に流れ」としたことで、足元の小さな風景が、燦めく大きな風景となり、繋がる命までを感じることができます。
 
……
ひとすじつめたい南の風が
なにかあやしいかほりを運び
その高原の雲のかげ
青いベールの向ふでは
もうつゝどりもうぐひすも
ごろごろごろごろ鳴いてゐる
 
 ここでは、一瞬流れてくる風の形容です。それは冷たさと同時に、何か胸を突かれるものだったのでしょう。風に「あやしいかほり」を感じ取る、共感覚的な表現ですが、香りに加えて、鳥たちの声が、いつも聞くものと違う、包み込まれるような反響するようなものになったと感じさせるものだったのかもしれません。
 

 風はいつでも、賢治の周囲を包み、一つ一つの風景を、特別なものに仕上げているようにも感じられます。いろいろな作品から、また読み解いていきたいと思います。

 
注1:三浦修・米地文夫 「宮沢賢治の作品にみられる植物と植物園  総合的学習を目的とした大学植物園の活用について」 (『岩手大学教育学部研究年報第59巻第2号』 1991、12   
131ページ〜144ページ )
 







永野川2022年7月下旬

 大岩橋大皆川町側の欄干に、笹竹に小さな茅の輪と四手(しで)がついたものを見つけました。(上の写真)
 今までこの橋で毎年見かけていましたが、気に止めませんでした。
 でも最近、県立博物館の企画展『異界〜あなたとふいにつながるせかい』を観て、これが日常と異界との境で、人びとを異界から守る行事「符行」の飾りなのだと、気づきました。
 この橋は大皆川町と岩出町を繋いでいます。その境界にある重要な場所を守る大事な行事として、永く受け継がれているのですね。地元のかたのお話を聞けなかったのは残念でした。

29日 5:00〜7:00 薄曇 20℃
 
 昨夜の雨は上がって、ほとんど晴れに近い天気でした。途中で大平山に霧がかかってきて心配しましたが、徐々に晴れて、でも涼しく心地よい探鳥になりました。
 二杉橋付近は、ほとんど工事が終わり、工事前とは全く違う表情で川は平穏に流れています。
 少し登ったところで、上空をコゲラが西から東に渡っていきました。ここでは珍しい光景です。
 広い川にカルガモが1羽、浮いて、セグロセキレイとウグイスの囀が聞こえます。どこかでガビチョウの声も聞こえました。
 睦橋付近は、まだ工事が終わっていなくて、中洲に土嚢などが積んであります。そこでハクセキレイ幼鳥が1羽水辺を歩いていました。グレイでセグロセキレイの幼鳥かとも思ったのですが、顔の部分が微妙に白っぽかったので、帰って図鑑で確認しました。セグロセキレイの幼鳥はグレイでも腹部の白さははっきりしているのですね。
 付近をセグロセキレイが2羽、1羽と飛びました。もうじき川への復帰でしょうか。
 
 公園池は一面に浮き草が繁っていて西池にアオサギ幼鳥1羽のみでした。
 ワンド跡付近でホオジロが盛んに囀っていました。少し外れたところに、別の1羽が鳴きながら歩道に降りてきて、そのまま囀っていました。
 公園内の川の大岩橋に近い付近で声がして気づくと、どうもカワセミが岸にいたらしく、飛び立って下って行ってしまいました。でも今日のご褒美です。
 近くに、ダイサギも1羽佇んでいまいした。
 大岩橋近くの上部が枯れたヒノキにキジバトが留っていました。10分後に戻ったときにもまだ留っていました。
 山林近くの電柱でガビチョウが留っていて、ずうっと鳴いていました。先回見たのと同じ個体のようで、腹部の黄色味が強い気がしました。
 モズも近くに1羽留っていました。少し離れた田の垣根の上に2羽、こちらは幾分小さく、動きも2羽一緒で、幼鳥かも知れません。
 通行止めが解かれて、施設の少し上まで行けるようになりました。
山林に近いところで、一瞬キビタキの声がしたような気がしました。これからの季節に淡い期待をかけました。
 川が見えるところまで行けて、カワウ1羽、ダイサギ1羽、コサギ1羽を見つけました。脚が確認出来る近さなので、ここも、これから楽しみです。
 チドリが3羽、中洲に飛んで、一瞬、縺れて鳴きました。帰って確認すると、鳴き方はイカルチドリの攻撃の声に近かったのでイカルチドリとしました。
 合流点付で、カワウが1羽、2羽、1羽、と飛んだり浅瀬に降りたりしていました。ここは餌場が復活したのでしょうか。カワウの餌取りはいつも漁業の妨げとなっているのですが、ここなら誰も問題にしないでしょう。
 赤津川の田では、チュウサギが11羽も群れていました。嘴をなんとか確認出来る位置だったのと、群れでいることでチュウサギとしました。
 通行止めが緩みつつあり、次回も楽しみになりました。
 蝉はアブラゼミ、ミンミンゼミに変わりました。
 
カルガモ:二杉橋から上人橋まで2羽、大岩橋付近1羽、計3羽。
カワウ:大砂橋近く1羽、公園、合流点付近に1羽、2羽、1羽、計4羽。
キジバト:大岩橋近くヒノキに1羽。
アオサギ:公園西池に幼鳥1羽。
ダイサギ:公園川に1羽、大砂橋付近に1羽、計2羽。
チュウサギ:赤津川田に11羽。
コサギ: 大砂橋付近に1羽。
イカルチドリ:大砂橋少し下の中洲に3羽。
モズ: 大岩橋付近山林近く、電線と田の垣根に3羽(2羽幼鳥)、赤津川に1羽、計4羽。
カワセミ:公園川に1羽。
コゲラ: 二杉橋少し上、上空に1羽。
スズメ:特に目立った群れはなかった。
ハシボソカラス:特に目立った群れはなかった。
ハシブトカラス: 特に目立った群れはなかった。
ツバメ:赤津川3羽、公園3羽、計6羽。
ヒヨドリ:特に目立つ群れはなかった。
ウグイス:二杉橋〜上人橋1羽、公園1羽、1羽、2羽、計5羽。
ハクセキレイ:二杉橋〜上人橋幼鳥1羽。
セグロセキレイ:永野川二杉橋〜上人橋で1羽、1羽、2羽、公園で1羽、計5羽。
ホオジロ:公園ワンド跡で1羽、地面で1羽、計2羽。
ガビチョウ:二杉橋付近で1羽、大岩橋山林付近電線で1羽、計2羽。 
 
 サギのコロニーは無事存続していました。中では声が聞こえますが、木の上にいる鳥は大分少なくなり、動きは激しく、白いサギが多い気がしました。