今日も残業を終えて、いつもの帰り道、時間は23時を少しまわっていただろうか、最寄の駅である吉祥寺を降り、ネオンと若者たちの嬌声をあとにしながら、自宅のある井の頭に向かう。
ファッションビルの横の路地入ると、薄暗い旅荘などの看板を横目に坂道はゆっくり下っていく。 突き当たりは、都内でも有数な大きな公園で、そこまで来ると、先ほどの吉祥寺の喧騒が嘘のように水辺に浮かぶ鳥の羽音と少しばかりの木々のささやきが聞こえるだけである。
点在する水銀灯下のベンチでは、まだ肌寒いであろうこの季節の中で二人が肩を寄り添っている。 遊歩道を池の手前まで来ると、そこの茂みの所でなにやらうごめく影を見つけた、その影までは離れてはいたがよく見ると、男性の後姿だった、なにやら探しものをしているようだった。
昼間であれは単に通りすぎてしまうであろう光景だったが、この深夜帯である、ふと、立ち止まって 「こんな時間になにをしているのだろう」とタバコに火つけながらその後姿をしばらく見ていた。 潅木や植え込みを掻き分けて何かを探し回り、時としてゴミ箱さえも覗いているようであった。 ただ、その動きがどことなくぎこちなく、足でも怪我をしているのかとも思えた。
タバコをもみ消して、まあ、こえをかけるほどのことでは無かろうかととまた、歩き始めた。 池を横断する時に、なにかに追い越される感覚があったが、いまそこを歩いているのは自分ひとりである。 池を渡り、小さな売店のところを抜けると先にはもう住宅街が見えてくる。すると、今度はもう目と鼻の先でしゃがみ込んで何かを探している男の姿がそこのあった。
一瞬立ち止まったが、思わず声をかけてしまった。 「なにか探し物ですか?」 男は、こちらには後姿のまま、はりのない声で「ええ、片方なくしてしまって、ずっと探しているんです」 靴かなんかですか・・。と声をかけると 「ええ、まぁ」 とあいまいな返事が返ってきた。
私はその男に背を向けて、反対側の植え込みの下あたりを、形だけでもと書き分けてみた、暗い中で何か見つかるはずもなく、1,2分も経ったろうか、私は 「ありませんねぇー」 と言いかけながらうしろを振り向くともうその男の姿は無かった。 その時になって初めて、先ほど池の手前にもいたであろうその男のことを思いつき思わずそこを駆け出し てしまった.
100mも走ったろうか、警報機がなって、遮断機が降りた踏み切りまで来て、息が切れて立ちどまった。 そこはもう自宅の見える踏切だった、向こうには商店の明かりと自動販売機の明かりが見えている。 少し震えながらもタバコにひをつけると一掃落ち着いた、「さっきのはなんだったんだろう」 踏み切りはなかなかあかなかった、そして電車が来る気配も無かった。
その時、後ろから何かが追いつく気配があった、しかし振り向く勇気は無かった、それが真後ろから真横に並んだ、前を向いたまま金縛りのようにもう動けなかった。 そして聞こえた 「探してくれてありがとう」 えーと思ってよこを向くと男が立っていた。
しかし男には首から上と足が無かった。
私は今入院しています、もう二度とあの道は通らないのでわかりませんが、あの男はまだあの公園今でも探し物をしていると思います。
「なぜって」
だって、まだあの事件の頭と足は見つかっていないだろう |