栃木市岩舟町小野寺の西根に「ざっこ」「なご」と呼ばれているところがある。ここに伝わる大蛇の話を一つ。
ざっこ・なご
昔、むかしの話だ。 西根の山あいの沢に、一匹の大蛇が住みついたんだと。大蛇は、時々里に下りて来ては、スルズル、ズルズルとその大きな胴体で田畑を踏みにじったと。大蛇に呑まれそうになって、傷を負った者もいた。 「子供を外へ出しちゃなんねえ。もし、大蛇に呑まれでもしたら、大変だぞ。」 「いや、あの大口だ、大人だってひと飲みにされるぞ。」 里人は大蛇を恐れて外にも出られず、野良仕事も山仕事もできなくて、ほとほと困り果てていたんだと。
これを見かねて、力持ちで胆の据わった男が、 「よおし、おれが何としても大蛇を退治してやっから。」 と名乗りを上げたと。この村に住む森入八ッ衛門(もんのいりやつえもん)だ。八ッ衛門はそれから毎日、物陰に隠れて刀を手にして大蛇が来るのを待っていたと。 あるどんよりと曇った日のことだ。なまあたたかい風が吹いて来て、山あいの沢からゴウゴウと不気味な音がしたかと思うと、大蛇が土煙を上げながらズルズル、ズルズルと下りて来たと。赤く長い舌をチロチロと出し、目は冷たく、らんらんと輝いていた。
男は、今だとばかりに大蛇の前に飛び出すと、刀を振り被って力いっぱい大蛇の胴体に切りつけたと。すると大蛇は、真っ二つになって体をくねらせながら飛んでいって、道の両側にドサッと落ちた。頭の方は山側に落ちて、尻尾の方は原っぱに落ちたと。 大蛇の頭が落ちた山のあたりは、その後、長いこと大蛇の目玉が怪しく寂しく光っていたので、さびしい光、寂光と呼ばれるようになった。 大蛇の長いしっぽが落ちたところは、長い尾、長尾(ながお)とよばれるようになった。長い間にこの呼び名も、訛ったり詰まったりして、寂光(じゃっこう)が「ざっこ」に、長尾(ながお)が「なご」になって今に伝わっているんだとさ。 おしまい。
小野寺城主の菩提寺だった住林寺が西根の山あいにひっそりと佇んでいる。 この寺の大きな門があったことから大門と呼ばれる所に住む小林正さんにお話を伺った。住林寺の南側が森の入(もんのいり)と呼ばれていて、ここに大蛇を退治した森入八ッ衛門が住んでいたのではないかという。 寂光・長尾は、岩舟ジャンクションの西側にあり北関東自動車道が出来て寂しい山里の風景は一変している。寂光の田んぼに立ち、大蛇が下りてきたという山あいを臨むと、高速道路があたかも巨大な白い蛇体の様に見えてきた。 |