栃木市の地図を見ると柏倉町の山の頂上に琴平神社がある。琴平神社と言えば、海の神様。それが海なし県の山奥にあるとは、何とも不思議だった。この神社のある琴平峠は、自転車仲間では有名な場所だ。栃木市側から上って葛生駅の近くへ下りる道で、車が滅多に通らないためヒルクライムの恰好の練習場所となっている。
本殿まで行くには、琴平峠の19番カーブ脇の参道からだと、本殿まで10分位(最初の写真参照) サーキット場すぐ上の正面の石段のある参道から上ると30分位 (3番目の写真参照)
琴平神社に伝わる話をひとつ。
琴平神社の今昔
昔むかしの話だ。下野国柏倉村の年寄りが村のもんを集めて言ったと、 「伊勢参りと、讃岐の金毘羅参りもして豊作をお願いしに行くべ」 そこで村のもん10人が3か月もかかって、お参りしてきたと。帰って来ると村のもんが集まった。 「いやあ、ご苦労さんだった」 大切に背負ってきたお札の包を開けてみて驚いた。一枚だけ受けてきたはずの金毘羅山のお札が2枚あるんだと。大きな木札だ、間違うはずねえ。 「こりゃあ、きっと金毘羅の神様のおぼしめしだ。」「しっかりお祀りしなくちゃ罰が当たるべ」ということになって、一枚は年寄役の屋敷の祠にまつった。 「さて、もう一枚をどこにおまつりすればよかんべなあ。」 「海の神様をおまつりしようにも、ここらあたりは海がねえ。馬草場になってる鞍掛山はどうだい。」 「四方八方の山が見晴らせるいいとこだ。雲の中に山が島みたいに浮かんで見えることもあるからなあ。海の神様も喜ぶべ」 恵方だったので、鞍掛山の頂上にちいちゃな祠を建てて、吉日に村のもんが集まってお参りしたと。 しばらくの間は、年に一回の祭りの日だけ村のもんが行くくらいだったと。 ところがな、金毘羅神社があるという噂が、舟の仕事をしているもんの耳にはいったんだと。巴波川や、秋山川、渡良瀬川の船頭や船主がこぞってここにお参りに来るようになったと。 「讃岐の金毘羅さんは遠くて行けねえけど、こんな近くに分社が出来てよかったなあ」 「ここにお参りするようになってから、一度も積荷を駄目にしたことがねえ」 これが評判になって、あっちからも、こっちからもお参りに来るようになった。大洗や佐原や銚子の方からも聞きつけてやってきたと。 分けても巴波川の船頭たちは羽振りが良かったから、石段や額を奉納するものが後を絶たなかった。立派な石段が出来て、本殿はもとより3階建の立派な山門までできたと。 これが下からも見えた。お参りする人のために茶店も出来て、どんどんにぎわって、「こんないいところだったら泊りたい」と言う人も出て、お茶屋や宿屋が何十件も出来て、三味線や太鼓の音につられて若い衆は山へ上がっていったんだと。山の中腹に湧き出る水場に豆腐屋もできたと。 山奥に海の神様が鎮座しているのは、こういうわけなんだとさ。 おしまい。
今年のお正月に琴平神社にお参りして、宮司の関口光一郎さんからお話を伺った。昭和20年の12月14日に大火で全焼してしまったのが惜しまれるとのことだった。今の本殿は昭和35年に再建されて今に至っている。境内からの眺望は素晴らしく、唐沢山、太平山、男体山、浅間山、筑波山、富士山、スカイツリーまで見ることができた。 |