むかし、ある寺に、和尚さんと小僧さんがいました。
ある日、小僧さんが和尚さんの部屋へ行くと、和尚さんは火鉢で鮎を焼いていました。和尚さんは小僧さんに食べさせたくなっかたので、「これは、かみそりというものだぞ。」と言いました。
ある日、和尚さんと小僧さんは、檀家に呼ばれて出かけました。和尚さんは馬に乗り、小僧さんは後から歩いて着いていきました。途中の川の中に鮎がたくさん泳いでいました。「和尚様、かみそりがたくさん泳いでいます。」と、小僧さんが言いました。和尚さんは、「むかしから、見たら見捨て、聞くものは聞き捨てと言うぞ。」と言いました。「はい。」と返事をして、小僧さんは和尚さんの後に着いて行きました。
和尚さんはいねむりをはじめ、かぶっていた頭巾が落ちました。後で頭巾が無いことに気がついた和尚さんが、「小僧や、わしの頭巾を知らないか?」と聞きました。すると、小僧さんは、「頭巾が落ちるのを見ましたが、和尚様は先ほど、見たら見捨て、聞いたら聞き捨てと、おっしゃったので、見捨ててきました」と答えました。和尚さんは「落ちるものはチリでも拾えと言うぞ。すぐに戻って拾って来い。」と言いました。
小僧さんが、頭巾を拾って戻って来たとき、道に馬糞が落ちていたので、それを拾って頭巾の中に入れて、「落ちるものは、チリでも拾え」と言って、和尚さんに差し出したということです。