むかし、土与村に勇三さんというひとがいた。
このあたりでは、毎年水争いが絶えないかったので、牛久、川連、土与の三つの村が力を合わせて堀をつくって、巴波川から水を引くことになった。勇三さんはこの話のまとめ役になった。わずか千メートルばかりの長さだったが、百曲がりにすることで話がまとまった。
その夜のこと、勇三さんの枕元に美しい姫が現れ、「私は、用水堀に住む大蛇です。私のすみかがなくなってしまうから、どうか百曲がりにしないでください。九十九曲がりの堀をつくってください」と、涙ながらに言うと姿を消した。
次の日、勇三さんがこの夢の話を皆にすると、「そりゃよほどのわけがあるのだろう。たたりも気になるし、この際、九十九曲がりにするべ」という長老の意見で堀は九十九曲がりにすることになった。
下検分に三人が選ばれて、晴れた日にくいと縄を持って出かけた。雑木や雑草のおいしげってた中を九十九曲がりになるように計りながら歩いていると、こんこんと湧き出る泉に出くわした。三人が乾いた咽喉をうるおしなが一休みしていると、突然黒雲が広がりあたりが薄く暗くなった。三人があわてて帰ろうとすると、美しい姫が現れた。姫は「私の願いを聞き入れてくれて本当にありがとう。お礼に用水堀には水を絶やさないことを約束しましょう。村の人たちにもよろしくお伝えください」と言うと、泉の波風が立ち、女は大蛇に姿を変えると、泉の中に消えていった。すると、黒雲もなくなり、もとの青空になった。三人は帰って、村人たちにありのままを話した。
やがて、用水掘が出来上がると、水は絶えることなく流れた。おかげで、このあたりでは、水の心配も、水争いもなくなり、前にもまして米作りに励むようになった。以来、
「九十九曲がり百曲がり、なさけかければ姫が出る」
「九十九曲がり百曲がり、今ひとつまがればへびが出るぞ」
という唄がうたわれたとさ。
渡辺セツ 再話 「語り部が書いた下野の民話」
「ふるさとおおひらの民話」