むかし、高畠というところに、ひとりの長者がありました。長者のひとりのむすこが、よめさまをもらってしばらくたつと、どうしたわけか、よめさまの顔が青ざめてきました。べんじょへ行くたびに、ますます青ざめてくるのです。むすこは、おかしいなと思って心配していました。
その長者の家では、大きなおすのみけねこをかっていました。そのねこは、よめさまがべんじょに行くと、かならず入り口について行きました。えさを食べているとちゅうでさえ、食べるのをやめてべんじょの入り口に行ってじいっとすわっていました。
次の日も、また次の日も、べんじょの入り口にすわっていました。
「あのねこのやろう、へんなやつだ。いくらおすねこでも、あんなことはしないもんだ」
と、むすこはいやな気持ちでいました。
その次の日も、よめさまがべんじょに行くのを見て、ねこはむっくら起きてべんじょの入り口に行き、じいっとすわっていました。むすこは、
「ちくしょう、けしからんやつだ」
とおこって、とこの間から刀を持ってきて、ねこの首をぶった切ってしまいました。
すると首は、下へ落ちずにどこかへとんで行きました。
「なんだ、ぶった切った首はどこへ行ったんだ」
と、むすこは見まわしてみたけれど、首はみつかりません。おかしいなと思っていると、べんじょのはりの上で、ガサガサ、バタンバタン、というはげしい音がしたかと思うと、大きなへびがドタン、と落ちてきました。そのへびののど首には、ねこの首ががっちりとかぶりついていました。むすこはおどろいて、そのへびを刀でぶった切って、たいじしました。
「おまえが、おれのよめを守っていてくれたのか。うたがったりしてすまなかった」と、むすこはいいました。
むかしから大きなへびは人の血をすい上げる力があるものだといわれています。よめさまは、べんじょに行くたびにへびに血をすい上げられていたので、顔が日に日に青ざめてきていたのでした。
ねこはよめさまがへびに飲みこまれては大変と毎日毎日、べんじょで番をしていたのです。
むすことよめさまは、ねこの宮をたててねこがたたったりしないようにおまつりしたということです。