随分空けていました。 趣味に活動していた時間はあったのですがここに載せられない絵を描いてばかりいたので生存報告がてらに読んだJOJOノベルのThe Bookについて感想でも述べてみましょう。
この話は以前の恥知らずのパープルヘイズやオーバーヘブンに続く、荒木先生でない作家のJOJOノベライズ作品ですね。この話は乙一氏の著したものです。 杜王町を舞台にした、4部と5部の間の話です。 性質上ネタバレなのでこれから読む予定のある方は御注意下さい。
一言で感想を言えば面白かった。原作のキャラを壊さない様にきちんと再現しているし、ファンサービスも適度。文章でもスタンドバトルが伝わる描写力がある。自分の体験がそのまま文章化され、それを他者に見せる事でその記述を自分の体験のように錯覚させて肉体に影響を及ぼす、そういったオリジナルスタンドもよくできている。 隠し部屋とかそういうありきたりな場所ではなく、誰も人の入ってこないビルのわずかな隙間に突き落として監禁するというサスペンス・ホラー的狂気の要素も良い。
ただ、自分がどうしても好きになれなかったのは、当作品のオリジナル主人公の蓮見琢磨だった。 キャラはよくできている。孤高の一匹狼、母の仇を討つ為に父親殺しと言う修羅の道に臨む。クールでニヒル、度胸も据わっており、物怖じするなんて無様な真似はしないし、邪魔をする者は誰であろうと容赦はしない。 実にダークヒーローらしくよくできた主人公である…荒木先生が漫画として描いたらこの上なく魅力的なヒーローになれた事だろう。 それにも関わらず、どういう訳か自分は最初から最後まで好きになれなかった。 感性の問題かもしれない…が自分はパーフェクトなヒーローには魅せられないのかもしれない。 躊躇しないと言えば荒木作品的には当たり前なのですが、自分を探って目的の障害になると判断した仗助を殺そうとして東方朋子を誤って殺しかけたりした事を「俺の邪魔をするからだ」で済ます神経は好きになれるものではない。 さらに口が悪すぎたのも理由かも…戦略上の理由があったとはいえ億泰に対しては顔・頭、兄の京兆も引き合いに出して挑発していたのは原作キャラのファンとしてはちょっといい気はしないなあ…。 文章という媒体のせいかセリフ回しが妙に厨二臭い、という印象が最初からついて離れなかったという感じがします。 そのせいか感情移入できず「こんな奴やられちまえばいいんだ」みたいな気持ちがあったのが本音でした。
スタンドの能力のキーワードが感情移入だというのに、本体である主人公に感情移入できなかったのは皮肉の極みというか、読者として未熟と言うべきなのか…。 そもそも原作キャラを至上に考えてオリキャラは引っ込んでろという発想が多少あったという点でわたしもまだまだ未熟だと思います。
感情移入と言うのは、スタンドのテーマでもあった様に本を読む意味でとても重要なものです。ある意味では、この作品のタイトルをそのまま表しており、良くできた作品自体が作者にとってのスタンドなのだ、と暗に言いたかったのではないかと言う気がする。
感情移入に関しては、自分も大いに賛同する所である。どうでもいい陳腐なセリフ。それが心を揺さぶれば作品の世界に引きずり込み架空のキャラクターをヒーローに変える。 キャラクターが見せる、思考や行動へのシンパシー。それは自分自身をそのキャラクターそのものであるかの様に錯覚させ、キャラクターにシンクロさせる。 感情移入させるという事はとてもスゴい技術であるし、それが本の無類の可能性であるという気すらさせてくれる。
…まあ、相性というものがあると思いますけどね。 感情移入を謳うキャラに感情移入できなかった事で感情移入のスゴさを認識するというのも皮肉の極みと言う感じもしますが…。
何にしても、本の表現力が及ぼすパワーと言うものにしみじみと感じ入る次第でした。 |